【昔書いたSSシリーズ(2016)】
※艦隊これくしょん-艦これ-の二次創作SSです。タイトルは決まっていなかったようなので仮題をつけました。左遷で僻地に島流しにされた軍部に反抗的でメカニック系な提督と、あちこちが凹んだり、尖ってたりしてる艦娘たちの凸凹物語を書きたかったらしい。未完です。(本文-約4,500文字)
あらすじ
美濃輪清(みのわせい)は、かつての深海棲艦との激戦時代を生き抜いた優秀な海軍少佐であり、とある界隈では有名な伝説の兵装技官でもあった。ただ、出世欲が無く、上層部に従順でもなかった彼は、ある程度名高い将校でありながら、とある地方の鎮守府で、未だに工廠の整備士として従軍していた。油まみれになりながら、軍艦の兵装を弄くり回すことが、彼にとっての生きがいだった。
そんな清のもとに、突然の昇進と、更なる僻地への赴任を命ずる辞令が同時に届く・・・。
以下、原文まま。
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第一話「
■郷鎮守府 海軍工廠
鎮守府の工廠には、今日も工作音が鳴り響いている。
整備士「明石、ボンベの元栓開けてくれー」
明石「今、手が離せないんですー、ご自分でどうぞー」
U511「ユーが開けてくるね・・・?」
腰掛けていたドラム缶から、ひらりと飛び降り、いそいそと駆けていく異邦の艦娘U-511。
整備士「悪い、頼む。気をつけろよー?」
U511「Jawohl...!」
整備士「おっ」
正午を告げるサイレンが鳴り響く。
明石「ふぅ。もうお昼かぁ」
整備士「ユー、とりあえず元栓開けないでくれ」
U511「わ、わかった・・・!」 ←もうちょいで開けるところだった
明石「お昼、どうします?ぱぱっと済ませちゃいますか?」
整備士「そうだな。午後からは艤装整備で忙しくなるし、さっさと食べて、作業を済ませちまおう」
溶接トーチと遮光面を地面に放り、大型の木製弾薬箱にドカッと腰掛け、腰に巻いた上着の裾で額を拭う整備士。
明石「じゃあ、お湯沸かしてきますね」
工作艦明石が、工具類と一緒に壁に掛けてあった、真鍮製で、へこみと煤だらけのやかんを手に取る。
U511「ユーも一緒に食べていい・・・?」
整備士「いいけど、食堂で食ったほうが美味いだろ?」
U511「食堂のご飯も、美味しいけど・・・ユー、高速戦闘糧食も結構好きかなって・・・」
明石「お二人とも、焼きそば味でよろしいですか?」
U511「焼きそば・・・!好き、一番よいです・・・」
整備士「変わった奴だな」クスッ...
明石「少佐も、焼きそばでいいんですか?」
整備士「ああ」
午前中、工廠の入り口に人が立つと、その人は太陽を背にして立つことになるため、工廠側に影ができる。
そのため、工廠内にいる人間は、訪問者に気が付き易い。
将官「“変わった奴だな”とは、貴様が言えた義理ではなかろう」
いかにも威厳のある将官が、決して嫌味ではない、されど、呆れてせせら笑うかのような口調で喋る。
整備士「提督!」
誰か艦娘のものであろう、整備待ちの艤装のマストに掛けてあった、自身の帽を急ぎ被って立ち上がり、将官に敬礼する整備士。
U-511は、はじめに右腕でドイツ式の敬礼をしそうになり、慌てて正し、今にも泣き出しそうな、もみくちゃ顔のまま敬礼している。
明石はというと、水を入れたやかんを、ひっくり返し、「あわわ、あわわ」と、やかんと将官へ交互に目配せしながら、相当狼狽えている。
将官「いい、いい。楽にしろ」
やれやれ、といった様子で、顎を引き、帽の鍔に指を掛け、帽を正す将官。
明石「す、すみません・・・」
将官「限られた時間での昼餉のところ、悪いが・・・。美濃和、たった今、中央より、貴官に辞令が届いてな」
整備士「は・・・自分に、ですか・・・?」
端の下がった眉で、驚きと困惑の混じった声色の整備士が喋る。明石は、どんぐり眼で、口元を両手で押さえている。
工廠内にやかんの転げる音が鳴り響く。また二・三、へこみが増えただろう。
U-511が悲鳴を上げて、軽く飛び上がる。
将官「心当たりはあるか?・・・いや、なかろうな・・・」
将官が、どことなく寂しげな表情をする。
明石「少佐・・・いったい何をしたんですか・・・?」
掠れた震え声の明石が、整備士に近寄り、深刻な顔つきで彼を見つめる。
整備士「人聞きが悪いぞ、明石!何もした覚えは・・・」
整備士「・・・ない」
整備士が、控えめの声量で明石に食って掛かる。が、威勢がよかったのは最初の一言だけだ。
将官「まあ・・・悪い知らせか、良い知らせかといえば、私の考える限りでは、貴様ら自身の誰にとっても、良い知らせではないかもしれんな」
整備士「・・・。提督、急かすようで大変恐縮ですが、辞令の概略をお聞きしてもよろしいですか?」ジトー...
将官「ああ。今、そうしようとしていたところだ」
将官が、懐から辞令書を取り出して広げ、読み上げる。
将官「郷(キョウ)海軍工廠・海軍少佐、美濃和清(ミノワセイ)。端ノ隅島(ハシノスミシマ)泊地に着任し、海軍中佐として、艦隊の指揮を命ず」
沈黙。
波の音と、ウミネコの鳴き声が鮮明に聞こえる。
X X X
――郷鎮守府。
俺にとって、因縁の地であり、今は安息の地でもある。
いや・・・安息の地だった。
4年前、海軍機関学校を卒業した俺は、最初に、この基地の工廠に着任した。
海軍で何がしたかったかといえば、今も俺がやってるような、油と煤にまみれて兵器の中身を弄繰り回したい、って、だけだった。
だが、当時は深海凄艦との戦闘が激しく、まだ現場のことなど知るはずのない士官候補生の俺ですら、空襲で負傷したり艦娘の艦隊行動に随伴している先任らの代わりに、
現場の指揮を一任されることが殆どで、なかなか苦労した。着任から1年経ったころに、一度、従来の戦闘艦の乗組員として、他所の鎮守府に出向させられて、
半年ほど工廠での仕事ができない期間もあった。あの時は何度か死にかけた。
そんな環境のせいもあってか、俺は任官後、3年で少佐にまで昇進した。
だが、正直、俺にとって昇進はそれほど重要でなく、うれしいことといえば、機密扱いにされている兵器の情報の参照許可が降りることと、
多少の資材なら独断で管理することができるくらいだ。
むしろ、都合の悪いことのほうが多いように思える。
今回の辞令も、いい例だ・・・。――
□ 郷鎮守府 官舎
整備士「・・・」
明石「・・・」
郷鎮守府の工廠要員ら2名が、官舎の渡り廊下で、窓枠に腕を乗せ、窓の下を覗き込んでいる。
今日は午後から雨の予報であったが、どうやら当たっていたようだ。二人の視線の先には、壁に張り付いた一匹のアマガエル。
明石「・・・あの」
整備士「・・・」
明石「今回は・・・当然、お断りできないと思いますけど」
整備士「・・・」
明石「・・・ねぇ」
整備士「・・・」
明石「聞いてます?」
整備士「・・・」
明石「ねぇったら!」
整備士「聞いてるよ・・・!当たり前だろ・・・」
返事をしないことにむくれる明石の呼びかけを、怪訝そうにあしらう整備士。
明石「ずいぶんと投げやりなんですね・・・。どうするおつもりですか・・・。」
整備士「どうする、って・・・どうしようもないだろうが・・・命令なんだから」
明らかに不機嫌な声色の整備士。
明石「・・・」
さらにむくれる明石。
明石「そんな言い方・・・無責任です」
整備士「・・・は?」
明石「今まで散々、工廠の仕事が一番だって言ってきた・・・くせに」
明石の口調が一変する。
整備士「・・・」
明石「一番だって言って、前に中央鎮守府への栄転と昇進が打診されてきたときも、さっさとお断りして」
明石「そもそも、せ――、少佐は、自分が油まみれになって作業する必要なんかないのに、毎日、朝から晩まで事務仕事ほったらかしで、油まみれになって!」
明石「そのくせ、いざ辞令が届いたら、何の試みもなしに、“はい、じゃあ整備士やめます。転属万歳”って、そんなの無責任で、いい加減過ぎだと思いません?」
ここまで食い気味に言い放ち、整備士の横顔を恨めしげに睨みつける明石。
明石「もっとちゃんと考えてくださいよね・・・」
整備士「あのなぁ・・・俺だって、好きで辞令に従うわけじゃないし、お前だって、俺が何をしようと、今回ばかりはどうにもならんって、わかってんだろ」
明石「・・・ユーちゃんだって、あなたにすごく懐いてるのに。彼女、最近になって、やっと笑うようになったんですよ?」
整備士「・・・そうだな」
明石「さっき、あなたが提督とお部屋でお話している間、彼女、ずっと気にしてました。“セー、どこに行きますか?すぐ帰ってきますか?”って」
整備士「・・・他の奴らもそうだけど、ユーには後でちゃんと説明するよ」
明石「なんて言うんですか?さっき私に言ったのと同じみたいに、ですか」
喧嘩腰に明石が吐き捨てる。
整備士「・・・ああ。必要な情報は足してな」
少し嫌になってきた様子と表情で、自分の頭を撫でる整備士。
明石「・・・あの、なんで私が怒ってるのか言ってもいいですか?」
整備士「・・・ああ」
明石「・・・清くんは、いつもそうやって・・・漠然とした情報みたいな、ホントのことしか言えなくて・・・」
整備士「・・・」
明石「自分の気持ち、ちゃんと話してくれないから」
明石「・・・」
窓枠に置いた自分の腕に突っ伏して、すすり泣き始めてしまう明石
それに気が付いた整備士が、バツの悪そうな顔で口を開く
整備士「なあ・・・明石・・・こんな言い方、冷たいかもしれないけど、終わったことを引き合いに出すのはよそう」
明石「・・・」
一瞬、明石のすすり泣く声としゃっくりが止まる。
明石「・・・冷たいってわかってるなら・・・言わないでください!!」
整備士「明石っ!」
顔を覆ったまま走り去る明石。整備士は、明石が走っていった方向に、一歩踏み出るも、彼女の背中を追うことはできなかった。
雨が少し強くなってきた。アマガエルはもういない。
□ 郷鎮守府 工廠
午後からの工廠は、午前中よりも忙しくなる。
午前中は出撃前の艤装点検や、新式装備の開発、新造艦の建造が主な業務だが、午後からはそれらに加えて、
出撃海域から帰還した艦娘たちの艤装整備をしなければならないからだ。
彼女たちは、よく、艤装をボロボロにして帰ってくる。
まるゆ「ひぃ~ん・・・まるゆの・・・まるゆの浮き輪がぁ・・・」シクシク...
ボロボロの水着を纏い、断裂した浮き輪を手に提げた艦娘が泣きながら歩いてくる。
伊168「ほら、工廠に着いたわよ。もう、いい加減泣くんじゃないの!」
伊58「すみませ~ん、せーびしさん、今日も直してくだちいー」
U511「あっ・・・みんな・・・」
伊58「ユー!今日はせっかくお休みなのに、またこんなところで油売ってるの~?」
U511「うん・・・ユー、ね?ここ、好きだからって・・・。みんな大丈夫・・・?」
伊168「あたしもゴーヤも、大したことないけど、まるゆが爆雷をもろに受けちゃってさ」
まるゆ「うぅ~・・・」シクシク
U-511が、ドラム缶から降りて、まるゆに近付き、心配そうに泣き顔を覗き込む。
伊58「それで、修理してもらいにきたんだけど、せーびしさんは?いないの~?」キョロキョロ
U511「セー・・・いないかも・・・ずっと・・・」
いつもより一段と小さく、周りの音に掻き消されてしまいそうな声で、U-511が喋る。
伊58「えー!?じゃあ、誰がゴーヤたちを直してくれるのさー!」
前のめりで、U511に食って掛かる伊58。
U511「あ、あの!あのね・・・えっと・・・」
■端ノ隅島 船着場
日差しが強い。風など皆無だ。
清「暑い・・・。南方戦線を思い出すな・・・」
端ノ隅島は、本土から遠く離れた南の離島であり、その気候と環境はまるで異国の地である。
(了)